英国のデパート事情

日本のデパートの後退は20年以上前から話題になり深刻化していますが、英国のデパートも例外ではありません。ただ、英国のデパートでは打開策が打たれています。

日本でも認知度の高いHarrodsはツーリストにターゲットを絞り、特にオーナーがアラブ系であることからアラブ系の富裕層に強く、ロンドンに滞在する際にまとめて購入する、ホテルへの配送サービスなども徹底しています。私がMUJIのヨーロッパでバイヤーをしていた際にもラマダン後に売り上げが上がる事を見込んでストック調整をするなど、ビジネスと宗教も切り離すことは出来ません。

 

トレンドやファッションに強く若い層に非常に支持されているSelfridgesでは、結婚式をデパート内で行い、ファッショナブルなゲストがデパートでお祝いする、など「ショッピング以外の経験」をデパートですることに力をいれています。

 

デパートの今後を鑑み、大きく戦略を変えて展開を始めたのは英国人に一番愛されているリテイラーであるJohn Lewisです。ロックダウン以降閉店を加速化してもなお英国内に34店舗を抱えるためデパートで、戦略変更が必須であり、富裕層を含め一番大きな顧客リストを持ったリテイラーです。彼らは今後不採算点を閉店していくとともに、顧客リストを使用して不動産開発を加速化し、この開発したフラット(日本でいうマンション)にJohn Lewisで販売しているキッチン、家具、照明、電化製品、ブランケット、タオル、アロマデフューザーなどありとあらゆる商品と不動産とのセット販売を開始しました。また大きなデータベースがあるため、富裕層向けにはファイナンシャルコンサルタントが節税や投資のアドバイスも行うため、デパートの販売員の変わりに多くのファイナンシャルコンサルタントが採用されました。

John Lewisの戦略転換は組織としての柔軟性、危機感がないと行えなかったのかもしれません。過去の成功体験や1864年開店の老舗意識を取り払い、大きく舵を切った現在のチェアマンは2019年にヘッドハンターされたジャマイカ移民2世で、英国のトニーブレア政権でアドバイザーの経験もある女性、シャロンホワイト氏です。

プラスチックを使用しないブランド

2022年の5月に3年ぶりに日本へ帰郷し、会いたかった家族や友人たち、美味しい和食、和菓子、日本茶、着物を見て周り3年間経験したかったことをほぼ完全に経験し楽しい時間を過ごしました。

日本に帰るたびに考えさせられるのは、コンビニ並ぶプラスチックボトルに埋められた一面の壁と、濡れた傘を保護するためのプラスチックの袋や雨の日に紙袋を保護するために提供されるプラスチックのカバーです。日本は分別ゴミのシステムができており、しかも真面目な人種でゴミ出しはほぼシステムができていると思います。ただ、プラスチックが海洋汚染や地球温暖化に悪影響を及ぼしていることは明らかであり、プラスチックを極力使用しない生活を心がけ、元々使用しなければ分別しなくても良いはずです。

UKではプラスチック税が設定され、梱包材を含めプラスチックを使用する量で税金が課せられる仕組みが始まり、弊社で商品を卸しているUKの大手の百貨店Selfridgesからはアイテムごとにどのようなプラスチックを製品及び梱包材に使用しているか、プラスチックの重量も1アイテムごとにリストの提出を求められました。このリストが提出できなければ今後の取引はできない、プラスチックの使用量が多ければ今後の品揃えからも外されます。日本のクライアントからは「日本のお客様は神経質なのでプラスチックのカバーは絶対に省けない」とよく言われます。また安価で便利なプラスチックを商品開発から省いていくのも至難の技です。その中、私の古巣でもある良品計画がプラスチックボトルの飲料水を撤廃したのは非常に評価されるべきで、日本の習慣に風穴を開ける決定だと思います。

欧州ではバースディカードなど今までプラスチックの袋で保護されていたものもカバーなしで販売されています。どうしてもプラスチックを使用するのであれば生物分解できるプラスチックの使用を推進していくことは、高額なPR活動よりも有効です。すでに2022年6月現在、欧州で生物分解可能なプラスチックの使用は当たり前で、メリットというよりも通常のプラスチックを使用することにより起こるデメリットのほうがダメージが大きい状態です。

各ブランドが光熱費や原材料の高騰で商品の値上げを行っていますが、これを機にプラスティックの使用を抑え無駄なもの、環境に負荷のかかるものを省く良いチャンスではないでしょうか?一般のお客様になぜ今までのプラスチックのサービスを行わないのか説明していく、ある意味教育していくのもブランドの価値を高める意味でも重要だと思います。

内田啓子

自転車への回帰

私は6歳でようやく練習の成果があり自転車に乗れるようになり、10歳のころからピアノの先生の自宅までのどかな畑の続く道を30分自転車で走りながら「自転車があると子供でも自由に一人で遠くまで行けて楽しい」と思っていました。この自転車が今ヨーロッパで大変なブームになっています。

もともと自転車通勤人口はロンドンも非常に多く、自転車通勤の人たちがオフィス到着後に使うシャワールームは完備されていますし、オフィスの駐輪場も非常に整備されています。この上に、Covit-19のパンデミックを契機に密になることを防ぐため地下鉄やバスの代わりに、またジムでのエクササイズのかわりに自転車や歩いて通勤することがますます大きなトレンドになっています。UKのCovit-19の犠牲者の多くが肥満など複数の健康問題を抱えていたことも発表されており、このため、今週英国政府が3000億円近くをかけて自転車専用のレーンを作り、車道を車と一緒に走っているサイクリストへの安全性を高める政策を発表し、国をあげて自転車通勤、エクササイズを推奨することになりました。自転車通勤者が増えることにより排気ガスによる地球温暖化へのダメージの削減や渋滞が軽減されることもメリットです。

 また今週の日経新聞で自転車部品大手のシマノが株価でJR西日本、日産を抜き上場後の最高値を記録し、自転車部品メーカーの躍進も顕著です。シマノは日本では稀な89%が海外のセールスによる真のグローバル企業であることもリポートされ、2週間前のFinancial Timesではシマノ前会長でグローバル化の立役者であった島野喜三氏が亡くなったことが欧米で大きく報じられています。ツールドフランスのような世界有数のレースからマウンテンバイクまでシマノの部品なしには世界中の高級自転車は生産不可能ということで、日経でもこのような非常時こそ内向きになるのではなく、企業はシマノのようにグローバル化に転換する機会だと訴えていますが、私も同感です。このパンデミックをアンラッキーな出来事と捉えて静かにやりすごし、他社の動向を見てから戦略を立てるのか、機会と捉えてクリエイティブに自社の戦略を立てグローバル化に変換を打つのか、選択の時を迎えていると思います。

Financial Timesによれば、アメリカでは大人用自転車の売り上げが前年比120%増で、欧州でも新しい自転車はオーダーしてから2−3ヶ月待ち、この自転車を待っている間に古い自転車をガレージから出して、修理を学ぶのためのワークショップを受けるためのウェビナーが2週間待ちの状態です。私の友人も日本円で100万円前後の自転車をパーツに拘って特注していますが、このような自転車マニアもロンドンにもかなり存在していて、車体を特注の色に塗り替えたり、タイヤを特注したり、おしゃれなヘルメットなど自転車関連アクセサリーも大きなポテンシャルを秘めています。

WGSNのリポートでもロックダウン中に家でエクササイズを行っていた人はしていない人に比べて精神的なダメージを受けにくく、パンデミックを機に以前よりも体と心の健康やエクササイズに気を使う人は全世代で急増しています。

このような中、ライフスタイルのリテイラーは自転車やウォーキング通勤の際のウォータープルーフのジャケットやバッグ、帽子、シューズ、ウォーターボトル、お弁当箱(Bento boxは今や英語です)お弁当箱とセットのカトラリー(プラスティックのカトラリーや割り箸はエコロジカルの観点からNGな上、衛生面から自分のカトラリーを使用したい人が増えている)新たな需要の増えたエリアの商材を探しています。

英国政府はかつてのオリンピックサイクリングの選手をインフルセンサーにして自転車通勤を推奨し、地下鉄やバスでのCovit-19の感染率を下げながら、通勤中のエクササイズで健康な体作りを推奨し、この冬にやってくるかもしれないパンデミックの第2波の死亡率を下げようとしています。

全世代で「健康」がトレンドキーワードの一つになった今、長寿世界1位の日本での当たり前の生活習慣やアイデアが活かせるタイミングなのかもしません。ライフスタイルや工芸のインダストリーで次世代のシマノが出てくるためのサポートが出来たら私にとっても幸せなことです。

欧州進出も計画や戦略を立て選択をしながら、自転車に乗って長い旅に出かけるようなものなのかもしれません。

内田啓子

ウェビナーとカスタマーサービス

Zoom, Team, Skypeでのミーティングが日常となった今、ライフスタイルブランドやリテイラーの行うウェビナーに広がりがでてきています。「ものの消費」だけではなく、「ことの消費」と言われて久しく、欧州でもワークショップを行うなどオンラインではなくストアーに行く、エクスペリエンスに意味を持たせる働きかけは多くのブランドやリテイラーが長く行ってきました。ワークショップがソーシャルディスタンシィングの関係で行えない中、ウェビナーがこのエクスペリエンスの役割を担っています。

ヴァンクリーフ&アーペルでは石やカッティングなど宝石にまつわるウェビナーを行い世界中のファンが視聴するなど、業界のプロならではの知識を教示しています。このような試みはものづくりに長けている日本のブランドにとっては非常に有効な手段であり、英語が得意でなくても職人さんの超人的な手捌きや制作風景、日本語でのレクチャーをフィルムにして英語の字幕をつけて流すことも有効な手段だと思います。日英2カ国語のレクチャーもありますが、個人的には2つの言葉で説明すると一つ学ぶのに2倍の時間がかかるため、字幕で編集されたものが有効だと思います。

ウェビナーは無料のものもあれば費用を払うもの、寄付ベースのものまで様々ですが、基本は業界のプロの知識が地球の反対側にいる消費者に届く、日本の作り手の思いやこだわりを欧州の消費者に理解してもらう素敵なチャンスです。

 私は欧州のリテイル業界に長く身をおく者として、どうやって商品知識をストアースタッフに持ってもらうか、苦心してきました。特にロンドンのリテイルストアースタッフは転職率が非常に高く、商品知識や接客マナーの高いスタッフを長く雇用することは費用のかかる難しいことでもあります。ウェビナーは録画してインハウスでストアースタッフのトレーニングに何度も使用できますし、ストアースタッフを通り越して、作り手がダイレクトに顧客に商品の価値や思いを伝えることも可能です。

 ロンドンではオンラインで全てがスムーズに購入でき、世界一高いと言われる家賃を払う「ストアーを持つ意味」がパンデミック前から問われてきました。最近の調査ではUKの67%のオフィスワーカーが今後毎日オフィスで仕事をしたいと思わない。と答えており、大きな住まいのスペースを求めて都市部から郊外、地方へ移住も始まっています。都市部にストアーを持つ意味がますます薄れつつあり、この流れの中でストアースタッフの雇用率も必要性も下がりつつあります。

 ただ前回のブログにも書いたとおり、ローヤルカスタマーの有無がブランドのスタビリティを左右しており、このローヤルカスタマーを育て、増殖しているのは直接顧客とコミュニケーションを持っているストアースタッフの役割が大きく、ブランドにとっては重要なブランドアンバサダーです。日本と欧州でのカスタマーサービスの違いは過剰なおもてなしは一切ないことです。顧客がストアースタッフに求めているのは丁寧なおもてなしよりも、「いつ行っても笑顔で迎えてくれる」「商品知識があり、話していると楽しい」から会いに(買いに)いくのです。オンラインが主流になっても、有能なかつての「スーパーストアースタッフ」が「スーパーカスタマーサービススタッフ」として活躍し、輝けるブランドはますます発展していくように思います。

トレードショーのない9月

毎年8月の夏休みが終わるとともにパリのMaison & Objet, London Design Fair, Top Drawerなどなど欧州ではたくさんのトレードショーがあり、このタイミングでクリスマスギフトをオーダーして欧州の各ストアーは10月から店頭にて訴求を始めます。

欧州のクリスマス商戦は日本のクリスマスとは違い親戚一同、同僚一同、友人一同、ご近所の方達にも大きなプレゼントから小さなものまで、毎年私も30個は用意します。そのため11月、12月はなにかと出費が多く、また多くのUKの企業では12月のサラリーは通常の月末ではなく12月中旬に支給され社員のプレゼント需要に応えています。12月中旬から1月31日のお給料日までの間隔が長く「きつい1月」と言われ、寒いこともあって家に閉じこもるかジムで体を鍛えて出費を控える層が多くなります。30個以上ギフトを買うとなると時間もかかり、リストやプラン、予算を決めてショッピングを行いますが、12月には有給休暇を取って平日1日でリストを作ってプランしておいたクリスマスショッピングをガツっと行う人も多く、私がロンドンのオフィスで働き始めた頃には「ショピング用の休暇」があり、そのため「プレゼント用にサラリーを早く支給する」文化の違いにびっくりしました。雑誌や新聞も今年のギフトガイドなど女性向け、男性向け、デザインにうるさい人向け、スポーツが好きな人、等々趣向を凝らしたギフトガイドを発行しアイデアを提供します。

このようなクリスマスのギフト文化は欧州独特のものかもしれませんが、ギフト需要に応えていくことは欧州マーケット開発のキーとなることは間違いありません。

さて、9月に新しいギフトアイテムを予約し、購入するための数々のトレードショーが今年は全てキャンセルとなりました。1つの会場に数千人、数万人集めることは現在のソーシャルディスタンシングを守る方向からは無理であり、仕方のないことです。

この代わりにできることとして、私たちがプランしているのがバーチャルトレードショーです。各ショップのバイヤーと時間を決めてZOOMやFaceTimeで新商品を見せながら商品の特徴を説明するなどトレードショーで行っていることをカメラを通して行う予定です。時間のないバイヤーにとっては優先順位を決めて絶対に入れたいブランドとはバーチャルで効率よく商談できれば生産性が高いのかもしれません。

この他、来週からはバーチャルポップアップショップやZOOMやFaceTimeを使用してパーソナルショッピングイベントも行う予定です。

ライフスタイルの中でもラグジュアリーファッション業界は特にCovit-19の影響が高くDiane von Furstenbergが大規模なレイオフを行いニューヨークの旗艦店以外世界規模でストアーを閉じるなどセンセーショナルなニュースも流れています。

このような中、UKファッションの大御所PaulSmithはUKでは今年のセールスが4月は一時的に落ち込んだものの昨年比と同じまで5、6月で巻き返しているそうです。彼の言葉は印象的で「特別なテクノロジーを駆使してオンラインで巻き返したわけではない、たくさんの人と話しをしているだけさ」。日頃からローヤルカスタマーを作れているのか、このローヤルカスタマーとのコミュニケーションをストアーを閉じていてもとれるのか、ブランドの底力が試されているように思います。以前PaulSmithのスタッフと話していて印象に残ったのは、転職率の高いUKリテイル業界でスタッフが10年、20年、30年とPaulSmithで働いていることです。ストアーやヘッドオフィスのスタッフが定着してブランドを愛していればローヤルカスタマーも増えていきそうです。

ブランドのイノベーション、アイデア、アイデンティティ、サステイナビリティ、機動力が深く問われています。夏休みを挟んで10月までにどこまでオンライン以外の消費が上がってくるか、どこまでクリスマス商戦に魅力的なアプローチができるか、分析とともにクリエイティブなハードワークは続きます。

サステイナブルなショッピング習慣

2020年はCovid-19が始まる前からGen Z (ジェネレーションZ世代、1990年中旬から後半に生まれた層)が牽引する大量消費を否定するスローショッピングの傾向が現れていましたが、パンデミックでこの動きはGen Zだけでなく、他の世代にも広がりが加速しています。

地球温暖化への対応、プラスティックの海洋汚染、グローバルな貧困層を社会全体で助けるなど社会の責任とは何か、ロックダウン生活で考え直された方も多いのではないでしょうか?

今後このスローショッピングの傾向はロックダウン後の再オープンされたリテイルストアーで静かに浸透してくと見られます。このブログでは今後リテイラーやブランドはこの風潮をどう読んでいくのか考えたいと思います。

 

スローショッピングであることはリテイラーにとってはマイナスではないのですが、消費者のマインドが良いものを少量買って長く使う、修理して使う方向ですから、新商品の開発も販売員の対応やオンラインサービスの対応もマーケティング戦略もブランドとしてはそれなりに順応していく必要があります。

アメリカから始まったブラックフライデーの1年で一番売れる1日も、現在のUKでは逆にブラックフライデーにあえてストアーを閉めて販売を行わない「うちは大量生産、大量消費のスタイルに反対しています!」というスローガンを打ち出してブランドのオリジナリティを表現したり、あえてこの一番売れる日に何も販売しないけれどもストアー内でサステイナビリティに対するワークショップを行うなどGen Zから大きな支持を得るストアーも増えています。

 

フランスの化粧品のストアーでは、販売員のアドバイスが必要な場合は赤のバスケットを、黒のバスケットを使用する場合には声をかけないで欲しい、などと初めから顧客に意思表示してもらいサービスを提供するストアーもあり、双方向性の高いサービスにつながっていきそうです。

 

最近のリサーチでは欧米の60%の消費者が地球温暖化を真剣に心配している、あるいは解決に向けてサポートすると答えており、欧州への展開を考えるブランドにとってこれを無視することはできませんし、特にUKでは商品のパッケージにプラスチックを使っているブランドの商品は販売しない、というポリシーを持つストアーも増えています。ブラスチックであっても生物分解できるものであるなど商品の良さやクオリティの高さだけではなくパッケージのマテリアルも非常に重要なファクターです。

The Other Barのチョコレートは、下記のようにチョコレートのボックスの中にスキャンできるエリアがあり、スキャンのオプションはカカオの生産地のエクアドルの貧困層に寄付を行う、もしくは次のオーダーの際のディスカウントがもらえる、のどちらかのオプションを選べる仕組みとなっています。

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Gen ZはSNSで影響力もあり、Gen Zを制するもの、サービスはSNSを制する可能性もあり、この層の求める社会の責任、サポート、プログラム等はマーケティング戦略に欠かせないものとなっています。

 

私としては、Gen Zに支持されたいからではなく、人間として会社の利益のためだけに働くのではなく、豊かな美しい暮らしのため、自然を保護する、障害のある人やメンタルヘルスに問題のある人々に自立を促す、海洋汚染から生き物を守る、地球温暖化を緩める。意味のあるプロジェクトに真摯に取り組み、丁寧に発信しコミュニケーションをとっていくことを大切にしたいと思っています。それが結果的にGen Zから大きく支持され、SNSで欧州から世界中に発信され日本のクライアントのメリットになるのであれば非常に嬉しいことです。

内田啓子

 

家で過ごす時間、会社で過ごす時間

ロックダウンで家で過ごす時間が増えたため、インテリアデコレーションを変えたり、「心地よい家」を改めて考えた方も多いと思います。

 

2020年の欧州でのライフスタイルのトレンドと今後需要のあるエリアをWGSNのリポートとFTの情報からセレクトし私なりに検討してみました。

 

日本ではリモートワークが一段落してオフィスに戻るスタッフも多いと聞いていますが、UKでは業種にもよりますが、オフィスワーカーに限っては40%前後まで今後フルタイムでオフィスに戻ることはないと予想されています。雇用主側にとってもオフィスの家賃やデスク、チェア、会議室、電話等々スタッフ全員分を用意する必要がないわけで大きなコストカットになりますし、雇用される側としても通勤時間がなくなり家族との時間が増える、趣味やスポーツに使える時間が増え、リモートワークはポジティブに受け取られています。このため「心地よい家での過ごし方」「快適なホームオフィス」「新たな人との関わり方やコミュニティ」は今後の消費のキーとなります。下記は今後需要が増えると思われるエリアです。

 

1.     Zoom会議で印象に残る上半身に特化したファッション、アクセサリー。

2.     食品とドリンク類。ロックダウンで料理に目覚めた層が牽引する新たな調理器具の収集、たくさんのスパイスや保存食品を納められるパントリーを新たに作ったり、大きな新しいキッチンも需要が増えそう。

3.     ホームバー、ホームカクテルキット

4.     ヨガを家で行う際のマット、ブランケットなどヨガに必要なアクセサリーやホームエクササイズ関連

5.     ゲーム類(アナログ&デジタル)

6.     クラフト系のキット。陶芸、手芸などに加え、金継ぎ、ダーニング等修理を含むものは特にサステイナブルな意識が高い人々に人気

7.     DIYキットや塗料(壁の塗り替えもブーム)

8.     ガーデニング、家庭菜園にまつわるあらゆる物

9.     バーチャルエンターテイメント&バーチャルパーティ

 

私が日本と欧州で若干違うと思うのは、日本ではロックダウン解消とともにリモートワークもほぼ終了して、比較的早く元の生活(全員が決まった時間にオフィスへ行ってコンピューターに向かう)へ戻っていますが、欧州ではドラスティックにこの習慣が変わると思われます。ロックダウン前から会社や業種によっては自分専用のデスクがあるわけではなく、その日に空いているデスクを使うという「ホットデスク」と言われる習慣がありました。月に1回ミーティングのためにオフィスへ行くスタッフが増えるなど、今後ホットデスクの習慣が加速すると見込まれます。

 

毎日オフィスに通勤する必要がないことから、今後都会から郊外や田舎へ移住する人々も多くなると予想されており、心地よい家作り、暮らしを豊かにする、快適なホームオフィス作りのための物、アイデア、サービスは今後も需要が増えていくことは間違いないと思われます。またCovit-19後に多く言われているのが、Less buy but betterです。「高くても良いものを買って、長く大事に使う」。当たり前のことのようですがこの原点に戻って、環境に優しいもの、丁寧に作られた物、長く使って味わいのあるもの、など人や暮らしを豊かにして幸せにしてくれる物やサービスが求められています。大量生産、大量消費の時代はCovit-19を機に強制終了させられたのかもしれません。

内田啓子

 

 

デジタル化の加速とブランドのメッセージ

3月から欧州では不要不急の商材を扱うストアー、ブティックは一時閉店を余儀なくされ、各国徐々にオープンし始めUKでは6月15日の再オープンが予定されています。再オープンしたからといっても前のようにストアーに人が押し寄せるわけではなく、2mのソーシャルディスタンシングを守ってのショッピングとなります。このためデジタル化をどう加速させていくのか、そしてコミュニケーションの取り方、ブランドのメッセージの送り方を欧州のラグジュアリーブランドを参考に考えたいと思います。

 

約3ヶ月の閉店の間、ラグジュアリーブランドはブティックのドアをただ閉じていただけではなく、ハイスペンダーと呼ばれる超お得意様にはfacetime, WhatsApp (Lineのようなシステム) Zoomを使用して販売員がブティックの中で一対一のデジタルコミュニケーションをし、「新しいドレスが入りました。この色はトレンドです。」などとショップの中を移動しながら商材を見せ「デジタルウィンドーショッピング」でコミュニケーションを取り、閉店していても一対一の繋がりを持つことに時間を使っています。英高級デパートのハロッズではパーソナルショッパーと言われるショッピングの代行者を使用してお得意様の好みそうなアイテムをfacetime, WhatsAppで見せながら購入を促し、サイズが合うかどうか、返品したいかどうかを確認するため、配送の車が顧客の家の前で30分ほど待機して、返品したいものはそのまま持ち帰るサービスまで提供しています。

 

若いハイスペンダーはデジタルショッピングに抵抗はないのですが、彼らは「ショッピングの際に友人達の意見が聞きたい」ということで「ショッピングパーティ」をブティックの販売員とWhatsAppで作り、販売員が見せるジャケットなどを友人達の意見を聞いて、おしゃべりしながらショッピングを楽しむ。などリモートショッピングにも新たな要素が加わっています。ゲームの機能をオンラインショッピングに盛り込むブランドもあり、ショッピングにエンターテイメント性を持たせて楽しい夢のあるアクテビティとしています。ものを買うという行動は論理的ではなく感情的なものだと言われますが、Covid-19を機に各ブランドは感情に訴えるとともに、楽しい、しかも双方向性のマーケティングにシフトしているようです。

 

予算のあるブランドではすでに口紅の色や眼鏡をコンピュータのカメラ機能を使って試し掛けできるなど、3D機能を使用したデジタル試着は幅広いアイテムに広がり始め、単なるオンラインショッピングではない、付加価値のついたサイトの運営が加速しています。ただ、3D機能を使用したオンラインショッピングサイトはなくても、また旗艦店がなくてもfacetime, WhatsApp , Zoomを使用してクリエイティブなコミュニケーションができれば実店舗がなくてもダイレクトなコミュニケーションは可能です。柔軟なアイデアと実行力がブランドには問われています。

 

余談ですが、日本とUKの新聞を両方読んで思うのが、ロックダウンで日本では口紅の売り上げが下がっている一方、UKでは口紅の売り上げは上がっています。UKではZoomミーテイングが多い中でスクリーン映えする口紅は重要であり、またZoomミーテイングのバックグランドとなる壁面にかける絵画なども売り上げが上がっているエリアです。私も連日たくさんのZoomミーテイングを行っており、自宅のバックグランドの第一印象は重要だと感じています。

 

オンラインショッピングに付随する配送方法にしても、今までのスピーディな配送が良いという方向から、よりグリーンな配送が好まれる、またあえて「スローデリバリー」を選ぶオプションも作られ始めています。「スローデリバリー」は安いから選ぶわけではなく、混載であるが故に「環境に与えるインパクトが少ない」というオプションです。このようなサステイナビリティを問う、問題定義するブランドも今後より一層支持されていくと思われます。

 

アクションポイントとして、ITへの投資やITを使用したスタッフのトレーニングは最重要課題としてすべきです。ただ、多額の投資ができなくてもスマートフォンの機能を使って販売員やスタッフレベルのトレーニングでスキルを向上させSNSのライブ配信等ができれば顧客とのコミュニケーションは確実に向上します。ブランドからのメッセージも一方通行のメッセージから、今後はサステイナビリティや社会への貢献、希望や夢を持ちながら双方向性のあるコミュニケーションが求められます。ブランドにとっては新たなデジタルマーケティング戦略が求められています。

 

2020年 6月7日

内田啓子

Covid-19と付き合いながらのマーケティング戦略

2020年の始まりとともに、世界中がCovid19にかき回され、冬を越して、春もさーっと過ぎ、夏を迎えようとしています。私の住むロンドンは5月下旬の今、まだロックダウンの最中ですが、「ノンエッセンシャル(不要不急のもの)」を販売するショップは、6月15日からの営業再開に向けて、ようやくロードマップが作れそうなタイミングになってきました。

 

ロックダウン中の国民への経済支援は、国によって違うため、「欧州」、「極東アジア」というように、一概にマーケットではくくれないのですが、欧米で信頼度の高いWGSNのレポートとともに、ロンドンのライフスタイルリテイル業界に20年身を置く日本人である私の視点から、日本のブランド、特にこれから欧州市場進出を目指すブランドへの応援を兼ねて、ウィークリーでレポートを発信していきます。

今回のレポートの数字は、全てWGSNのレポート(Coronavirus Marketing Strategy: May 2020)から引用しています。

 

まずはCovid19と付き合いながらのマーケティング戦略作り。金融危機、コロナ危機など危機というものが起こると、まず早速削られるのがマーケティング予算。人員を削るよりは確かに良いと思います。実際にWGSNのレポートによると、2020年、米大手のCocaColaとGoogleは、大幅なマーケティング予算の削減を行っています。オリンピックが2021年に繰り越しになった費用も大きな削減であり、彼らは典型的なMarketinglaterグループです。ただ、全ての会社が削っているわけではなく、予算通りマーケティングを行っている会社もあり、P&GとDominoPizzaはMarketingnowグループです。特にDominoPizzaは、TV広告においてフランチャイズのパートナーを全面に押し出し、「雇用を促進している、地域に密着したビジネスを行っている」など、価値と安心、安全というポジティブなメッセージを送り共感を得ています。

 

2008年の金融危機の際、マーケティング費用をあえて増やした企業は、削った企業よりも3倍早く業績回復したという実績もあり、コロナ危機での打撃が比較的軽い場合は、むしろマーケティング活動、費用を増やすべきというのが私の持論です。ただ、消費者とのコミュニケーションの仕方には十分注意が必要で、33%の消費者は「3月、4月のコロナ危機時に適切でないと思われるアプローチをした企業のものは今後購入しないつもり」とのリサーチ結果も出ており、マーケティングコミュニケーションには、微妙なさじ加減が必要です。

 

私は、現時点で大きなシェアを持っていない、欧州ではこれからの日本のブランドにとって、「ピンチはチャンス」であると考えています。私が現在、欧州のマーケティングをサポートしている日本のクライアントにも繰り返し訴えているのですが、このような非常時に、消費者に「寄り添う、共感する」、そして「自分の従業員を解雇ではなく、フレキシブルにサポートするという姿勢」を見せ、このデリケートな問いかけをうまくコミュニケーションできるブランドは、できていないブランドのシェアを、比較的簡単に受け継げるとみています。実際に53%の消費者は、非常時に従業員を大切にするブランドは信頼できる、またこれからも支持したいと回答しています。私たちのストッキストである欧州のラグジュアリーライフスタイルショップに、ショップの再オープン支援のため、定価2000円程度の小さなプレゼントを5−10セット送付するので、グッディバッグ用に使用してもらえたらと案内を入れたところ、「このようなサポーティブなブランドは他にない!ありがとう!」など、感銘を受けたショップオーナーたちから、非常に多くの返信を頂きました。このような非常に厳しい時期に受けたサポートは、長い間ショップオーナーや得意先の心に残り、ブランドロイヤリティにも強く結びつきます。

 

消費者も、得意先の担当者も、周りの従業員も、ロックダウンにより、寂しさ、悲しみを感じ、精神的に疲れている人も多く、コミュニケーションやメッセージは、正確であると同時に、「希望」が持てるものであることも必要かもしれません。

 

今後のマーケティング戦略のアクションプランアドバイスとして、

 

·      デジタルマーケティングは、より重要性を増していくので、デジタル化、デジタルトレーニングは必須。日本は欧州に比べてオンラインショッピングを楽天やアマゾン、ZoZoなどの第3者のデジタルマーケティングに頼る傾向がありますが、欧州では自前のオンラインショップでデジタルマーケティングを駆使して顧客管理、ブランドの世界観、メッセージをダイレクトに提供し共感を得ています。今後、最優先で強化すべきポイントです。

·      従業員を切る前に、どのように雇用をキープ、また他社で解雇された人を採用できるか、消費者はブランドの行動、姿勢をしっかりと見ています。ポジティブメッセージを従業員と消費者に送れたブランドは、非常に質の高い従業員を雇用でき、しかも商業的なパフォーマンスを上げられると思います。

·      私の参加するロンドンのスモールビジネスオーナーの勉強会で、コロナ危機に入ってから非常に多く使われている言葉が「Pivot」です。直訳するとスピン、回転などの意味で、どのように柔軟性をもって現実と向き合っていくか、今まで以上に信頼性、創造性、共感がブランドに求められています。

 

言い換えれば、信頼性、創造性、共感性のあるブランドは生き残るだけではなく、進化し、繁栄する特別な2020年でもあります。

 

2020年 6月1日

内田啓子

 

 

 

 

Tea drinkers

英国人は頻繁に紅茶をいただきます。オフィスの仕事中に紅茶、ゲストが来るたびに紅茶。少し疲れたから紅茶、ストレスを感じたから紅茶。頑張って集中して仕事したから紅茶。嬉しいことがあったから紅茶。私が日本に住んでいた頃、実家では1日中絶え間なく煎茶、玄米茶、玉露、ほうじ茶を飲んでホッと一息ついていました。お茶器が乾く間がないほどに。

私が2001年に初めてUKの南西部の美しい古都バースに留学生として住み始めた頃、ホストファミリーの英国夫人ミセスニシオ(当時80歳で私が出会う前には日本人の旦那さんと結婚されていた未亡人)とTVや映画を見ながら頻繁にお茶を飲んで、今日起きたことを話しながら夜中まで話し込んでいました。私が日本に住んでいた頃、母とお茶をのみながら今日の出来事を話していたこととあまり変わらない日常で、ホームスティを始めて数週間後にはイギリス生活にすぐに馴染んでいたことを思い出します。

イギリスでのお茶文化は17−19世紀に始まったと言われています。今でも楽しまれているアフタヌーンティなど、日本の茶道とはまた違ったかたちでお茶文化が根付いています。この頃中国から輸入されるお茶はアッパークラスの間でも非常に高価なもので、ティキャディと呼ばれるお茶をいれる小さなボックス(陶器、木製などマテリアルは様々)には鍵がかかっていて、この家の女主人が鍵を持っていて鍵を持った人でないとティキャディを開けてお茶を飲むことができなかったほどです。現在でもアンティークの古く、美しいティキャディをイギリスのアンティーク店やアンティークフェアで見かけますし、ティキャディを集めている収集家もたくさんいます。日本のお茶文化の中で育った私にとってはこのイギリスのティ文化は異文化でありながら、どこか日本の茶道のお道具を集める感覚で懐かしくも感じられます。

今では簡単に手に入って消費されているお茶ですが、クオリティも価格も様々で、高価なお茶しか飲まない人もいれば、「ビルダーズティ」と呼ばれる工事現場で働く人たちが休憩時に飲むと言われる安価で大量に飲む紅茶もあります。お茶文化は英国でも非常に深い文化だと思います。次回は英国でトレンドの日本のお抹茶についてお話しします。

日本語から英語への翻訳

Maison & Objet Paris, London Design Fair, Milano design fairなど多くの人が集まる欧州でのデザインフェアに出展する日本のブランド、会社のスタンドを見かけると、自然に応援したい!という気持ちになります。大企業の出展であればイベントの一つで大きな賭けではないでしょうが、小さな会社にとっては欧州進出のための大事な一歩であり、このデザインフェアに賭ける意気込みも伝わってきます。欧州進出のため、みなさんもちろん英語の翻訳版の資料をお持ちなのですが、デザインも製品のクオリティも非常に洗練されているのに英語のパンフレットの翻訳の内容がブランドの価値を落としているケースを多々見かけます。(比較的認知度の高いブランドでもウェブサイトの英語が?の場合もかなりあります)。みなさん日本の翻訳会社で日本語が英文になった時点で翻訳会社を信頼してOKを出されているのかもしれませんし、それ以上にどのように翻訳のクオリティをチェックしたらよいのか方法がないのかもしれません。

そこで、英国で活動する日本人インターナショナルマーケティングコンサルタントとして、下記の二つのアイデアをお勧めします。

1つ目は翻訳会社に翻訳を依頼する際に「主に日本人の行う日本語から英語への下訳の後に、必ず英語のネイティブの人が行うネイティブチェック作業」をリクエストすること。ここで文法の明らかな間違いやスペリングの間違いは改善されます。イギリス英語とアメリカ英語ではスペリングも違います。例えばアメリカ英語ではColorがイギリス英語ではColour。アメリカをターゲットとしているならアメリカ英語で良いのですが、欧州市場をターゲットとするならばイギリス英語の翻訳が望ましいです。

 2つ目は日本語のパンフレットをそのまま翻訳するのではなく、日本に住んでいない人、海外マーケットをターゲットとするので、英語のパンフレットは日本語版後は別の内容で書く作業。例えば博多のブランドであった場合、九州、博多がどこにあるのかを日本人向けのパンフレットに書く必要はありませんが、欧州向けの資料には九州がどこで博多はどんな都市でどんな歴史があるのか説明が必要です。日本語と英語の資料の内容が違っていても問題はありません。この場合本当に大切なのは、ブランドのコンセプト、哲学、歴史、ストーリーを日本人以外の人々に伝え、そしてビジネスとして成立させることです。

 信頼できる英語ネイティブの友人やパートナーがいればパンフレットの印刷の前に必ず英語を読んでもらって、英文のクオリティを直してもらったり、日本の基礎知識がない人が読んでも納得できる内容であることを確認したいです。

 みなさんも欧州のブランドが発行する日本語のパンフレットで日本語の文法がちょこちょこ間違っていたり、子供のような言葉使いであれば信用できないと思うはずです。せっかく費用をかけた欧州でのデザインフェアへの出展、事前の準備はしっかり行いたいです。